佐藤康行の言葉をお伝えします。著者「悩み解決明快答」より
二つ目は、「他人に語る言葉」のマジックです。
その1では、言葉は、「それを発した本人に一番伝わっている」という部分に焦点をあてました。
ここでは、「他人に語りかける」という部分に焦点をあてます。
上司から憤怒の形相でミスを注意されたとします。
注意をされたら誰だって面白くありませんよね。
でも、面白くないからといって、ただヘラヘラ笑っていたら
「おまえ真面目に聞いてんのか。」という感じでよけい注意されてしまうかもしれません。
かといって、本音をそのままむき出して「うるせーなー!」なんて言ったら、明日、会社に席がないかもしれません。
そんな状況に遭遇してしまったときに使うマジックは
「心にもない言葉」を言ってみることです。
ちなみに心にもない言葉っていうのは、捨てゼリフじゃないですよ。
注意をされて実はムカついているんだけど、
あえて「ありがとうございます」と言ってみるのです。
そのときの本心は、ムカついていてもいいのです。
ぜひやってみて下さい。
そこから状況がよくなるからです。
私が若い頃の出来事です。
知人から「温泉があるから私の別荘に行かないか?」と誘われました。
せっかくなので、連れて行ってもらいました。
実際に行ってみて、私はがっかりしました。別荘といっても、ただ普通の家なのです。
温泉といっても、たらいをちょっと大きくしたぐらいのサイズです。
私は「はるばる来たのに、なんだこれは」と思いました。
しかし、私はせっかくここまで連れてきてもらったのだから、ある言葉をふと言ってみました。
温泉に浸かったときに「いや~あ、気持ちいいなあ」と心にもないことを言ってみたのです。
気が付くと私は
「いいところに連れてきてもらったなあ」
「気持ちいいなあ」
「ありがたいなぁ」
などと、何回も言っていました。
小さい浴槽といっても露天風呂です。
何回も感謝の言葉を繰り返すうちに、「星がきれいだ」「空気もすがすがしい」と本当に心から気持ちよくなってきました。
これは、自分に語るという部分です。
そして、重要なことは、それが、「相手に伝わる」ということです。
私が「気持ちよかった」「ありがたい」ということをその知人に伝えると、彼はとても喜んでくれました。
私が「気持ちいい」「ありがたい」と言うのを聞いて嬉しかったのでしょう。
別荘に到着して温泉を見たとたん、かりに私が相手に「な~んだ。全然たいしたことないじゃないか」と言ってしまっていたらどうでしょう。
心で思ったことをそのまま言葉で表現していたらどうでしょう。
連れてきてくれた相手も一緒についてきた人も、気分が悪くなりますよね。
もちろん私自身も、その日はとても気分が悪いと思います。
場合によっては、険悪なムードになっていたかもしれません。
本心をぶつけることが必ずしも悪いわけではありません。
むしろ本心をぶつけた方がよいこともたくさんあります。
しかし、その状況によっては、このように本心をそのままぶつけずに、「心にもないこと」を言ってみることによって、そこから新たな心が生まれてくることもあります。
そして、何よりも、「相手を喜ばせる」ということは素晴らしいことです。
「心にもない言葉」でも、それで「相手を喜ばせる」ことができれば、その相手の喜びによって自分の心が変化するのです。
自分の心が変われば、「心にもない言葉」が本心の言葉になります。
相手に語る言葉が、人間関係を良くする出発点になるのです。
世間では「ウソも方便」なんていいますが、私の言葉のマジックはウソをつくことではありません。
ウソというのは、事実と違うことを伝えることです。
先ほどの言葉の場合、「ありがたい」「気持ちいい」という感情は最初心にはなかったかもしれません。しかし、心とは逆のことを口にしたわけでもありません。
「ありがたい」「気持ちいい」と言っているうちに本当にそう感じたということは、そういう心持ちが自分の中に隠れていたとも考えられるのです。
また、目の前の事実を違う角度から受け止めることも有効です。
さきほどの例でいえば、私は「ありがたい」「気持ちいい」と口に出すうちに、目の前の事実を、角度を変えて受け止めることができました。
つまり、同じ風呂にしても、「たらいより少し大きい程度の風呂」ととらえるのを止めて、「きれいな星空の下にある山の中の露天風呂」としてとらえたのです。
さて、この言葉のマジックを使うときに、ポイントになるのは、その言葉を口にすることの「目的を明確」にするということです。
「目的を明確」にして、はじめてその目的を達成するための手段や方法が明らかになります。
たとえば、「どんな状況」で「相手がどんな人」で、そのなかで「自分はどうしたいのか」ということを、しっかりと意識しなければいけません。
それらを踏まえてはじめてどういう言葉をかけるかが決まるのです。
言葉にはたくさんの種類があるからです。
どんな言葉を選ぶべきか、どんなことを伝えるべきか、それを状況から適切に判断しなければなりません。
何でもかんでも思った通りに言葉を出せばよいというものではありません。
何も考えずに正直に伝えたことで、かえって相手を傷つけてしまうこともあるのです。
ガンの患者さんが、いたとします。
あなたはどうしてあげたいですか。
その患者さんを「生かしてあげる」ことが目的なのであれば「大丈夫だよ」と言ってあげることが必要な場合もあります。
正直に伝えたことで落ち込んでしまい、かえってガンが進行してしまえば取り返しがつきません。
この場合の「大丈夫だよ」という言葉はウソにはなりません。
なぜなら「目的が明確」だからです。
仏教では「人をみて法を説け」と言われてきました。「対機説法」あるいは「応病与薬」という言葉もあります。
人や状況に応じて言葉を使い分けることが大切だということです。
「いまどういう状況なのか」という状況の認識と「自分がどうしたいのか?」という目的の把握を、常に心がけてください。
本音そのものが喜べないのは、はじめのうちは仕方ありません。
しかし、そんなときには、一つの原因が考えられます。
相手や状況の「良いところが見えていない」ことが意外と多いのです。
見えないから、その良さがわからなくなり争ってしまうことがあります。
しかし、この言葉のマジックを使うことで、相手や状況の良いところを発見できるようになります。
先ほどの「苦情のありがたさを発見する」という例と同じです。
例えば、あなたが気に入らない相手を誉めたとします。
相手は、誉められたことによって態度が変わりました。
その反応をみて、あなたも心から嬉しくなってきました。
あなたは、誉める前の相手と誉めた後の相手とどちらが好きでしょうか。
もちろん、誉めた後の相手の方が好きだと思います。
誉める前よりも、ずっと好きだと思います。
それは、あなたが言葉を投げかけることによって、あなたの本音が変わったからなのです。
言葉を投げかけたのは自分です。
「心にもないこと」を、あえて言ってみることによって回転がドンドンよくなるのです。
ですから、相手から「こんなこと言ってほしいなぁ」なんて待っていてはダメです。
自分から投げかけるのです。そうすればあなたの回転がドンドン速くなります。
自分の言葉が、どうすれば相手に最もよく伝わるかを考えることも大事です。
学校の先生や親が子供に説教するとき、子供に伝わらないことは多いです。
相手に思いが伝わらないのです。
仮に「わかりました」という返事が返ってきたとしても、あなたが伝えたように相手が行動できていなければ、わかったことにはなりません。
では相手に自分の思いを伝えて、その気を起こさせるにはどうすればよいでしょうか。
一つには、「相手に相手自身を説得させる」という方法があります。
言葉のマジック1で話した「他者説得」が、同時に「自己説得」になる、という心の性質を利用するのです。
「相手の口」から「あなたが伝えたいこと」を言わせるということです。
そのとき、あなたの思いはあなたの思いというだけではなく、相手の決意になっているということです。
商品を売るとき、お客さんの方から「これは良いものですね!」と言ったとします。
すると、それはお客さんが自分で言っていることになりますので、そこには何の抵抗も違和感もありません。
このときお客さんはお客さん自身を説得しています。
もう一つ重要なのは、相手に語りかける言葉の種類です。
相手に語りかける目的は、自分が伝えたい内容が相手に「ストンと入る」ことです。
では、どうすれば「ストンと入る」のでしょうか。
それには、その相手に「一番なじみのある言葉」を使うことです。
目的はあなたが喋ることではなく、相手に伝わるということです。
「一番なじみのある言葉」は、「方言」あるいは「外国語」かもしれません。
「論理的」に言葉をつなぐと伝わるタイプもいれば、「感情的」に訴えたほうが伝わるタイプもいます。
相手にとってどうしたら正しく伝わるのかを考えればよいのです。
そして、
「ご質問に対するお答えになりましたか?」
「どうお感じになりましたか?」
「ご理解いただけましたか?」
というように、正しく伝わったかどうかを、常に確認することです。
ここまでの話をまとめます。
結局のところ、「他人に語る言葉」で重要なことは、「他人に意識をおく」ということです。
自分ひとりのコントロールは「心の操縦かん」で話したように、飛行機の操縦かんを握らされているあなたひとりの操縦かんさばきがポイントです。
しかし、相手とのコミュニケーションの場合は、自分一人だけではありません。
相手とのコミュニケーションのときには、飛行機を操縦するというより、馬に乗って手綱さばいていると思って下さい。
車や飛行機なら故障がない限り、操作通りに動きます。
でも馬はそうはいきません。乗り方は共通していても、乗る馬習性や性格によって臨機応変に対応しなければなりません。
きちんと調教されていて、人を乗せることに慣れている馬なら、きちんということを聞いてくれるかもしれません。
しかし、人を一度も乗せたことのない野生馬の場合は、細心の注意を払わなければ、乗ったとたんにふり落とされてしまいます。
あなたが、乗っている「馬をきちんと理解」できたとき、馬が動いてくれるようになります。
「馬が合う」とはそういう状態のことです。
「馬の理解」とは、まさに、「相手の理解」です。
「相手に意識」をおいたうえで、「言葉のマジック」を使ってください。