325.部長日記(最終話)

真我日記

3月31日という日がやってきた。
私の会社勤め最後の日になった。
まだまだ先だと思っていたが過ぎてみればアッと言う間にその日はやってきた。

Sさんは数日前から私の顔を見るたびに「どうしよう近藤さん。後◯日しかない。私、どうしよう・・・。」と何度もつぶやいていた。

Sさんとは私が会社を辞めて変わりをしてくれる女性のことだ。

ついにそれが爆発した。夕方4時前になって引き継ぎをしている最中にメモを私に渡してきた。

「無理かもしれません。部長に言ったほうが良いですよね。」と書いてあった。

私の会社の最後の日に彼女は不安が爆発したのだ。

私は急いで彼女を自動販売機のところまで連れ出してお茶を飲むことにした。

「何がそんなに無理なんだろう??」私の心は波打っていた。

私は焦っていた。部長との約束が果たせなくなる。部長との約束とは

313.部長日記(第16話)
に書いた

http://kondoyoko.com/20160320/790

部長からのプレゼントのことだ。それは「彼女の不安を取り除くこと」だった。

私は毎日、彼女の不安を取り除くために努力して引き継ぎしてきたつもりだった。
部長との約束を果たすために、何とかして彼女の不安を取り除かなければ!といつも考えていた。

私は彼女の満月を見てなかったのだ。
三日月にばかり目がいっていた。
彼女を何とかしてあげなければ!私が何とかしなければ!と必死になっていたのである。

自動販売機のところについて話を聞こうとした時だった。

Sさん「もう無理です。」
と言って緊張の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

その姿を見た瞬間に
私の中のスイッチが入った。

「あー!!」

あー不安を取り除くことなんかもうどうでも良い!!!

私は彼女を蘇らせるんだ!!!

私は全身全霊で彼女の素晴らしさを伝え始めた。

からだは震えて、声は震え、魂も震えていた。

私「自分で業務のファイルも作ってまとめてきたり、まじめに熱心に仕事に取り組んでる。Sさんはすごいんだよ!素晴らしいんだよ!こんなに一生懸命頑張ってるSさんはすごいんだよ。今のままで良いんだよ!変わる必要なんかないよ!私の変わりはSさんしかいないんだよ!」

自分でも何を喋ってるかわからなくなるぐらい熱弁をふるっていた。

会社の人が何人かジュースを買いに来ていたが、私は「構うもんか!!」とSさんの素晴らしさを全身全霊で伝え続けた。

私は真我が開いて泣きながら、彼女の真我に必死で語りかけていた。
気がつけばSさんも泣いていた。

そして、しばらく落ち着いてから私たちは席に戻った。

その後、彼女は何も言わずに業務を再開した。

私が彼女の満月を認めて、彼女は満月だと1mmもブレなければ絶対大丈夫だ!という確信があった。

5時のチャイムが鳴った。私は会社でお世話になった人全てに挨拶をして回った。

そして最後は生産管理のメンバーに挨拶した。Sさんの気持ちがどうか確認はしなかったが、私はもう大丈夫だという確信があった。

一人ずつ挨拶をして、最後はいよいよ部長のところだ。

私「部長。長い間お世話になりました。」しみじみと頭を下げてお辞儀をした。

部長「ずいぶん私のことをブログに書いてくれてありがとう。」

(???!!!)

一瞬時が止まった。

(えー!!!ブログ?部長もしかして私のブログ読んでたの?)

私「そうですか。読んでいただいてありがとうございます。」

部長はもっと驚いてほしかったような顔をしていたが、なぜか私はあまり驚かなかった。

部長に何を言われても全く反応しなかった。感謝以外の言葉が出て来なかったのである。

(読んでくれてたんだ。ありがたいな。さすが部長だな)

部長「ずいぶん私の悪口をたくさん書いてくれたね。ふん、ありがとう!」

私「悪口?あ、そうですか。部長のおかげです。本当にお世話になりました。ありがとうございます。」

部長の言葉、表情、その全てがありがたくてありがたくてしょうがなかった。

部長は私と会話したかったようだが、私が何を言ってもありがとうしか言わないので、「ふん、しょうがないな」という感じで

最後に「おつかれさまでした」と言ってくれた。

こうして、長いようで短かった私と部長とのやり取りは幕を閉じたのである。

これで部長日記は幕を閉じる。

そして私は23年間お世話になった会社を後にしたのである。

私の新しいステージは明日、東京から始まる。

部長日記(END)