1747.過去を背負ってきた山本剛史さんは語る3/5

真我日記

写真はウィンナーの野菜スープです。野菜たっぷり美味でした。
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佐藤先生の言葉をお伝えします。著書過去は自由に変えられるより
ある日のこと、彼女の両親が突然、私を病室に入れてくれました。

あれほど絶対に会わせてくれなかった彼女と会っていい、というのです。

その時の驚きと、嬉しさといったら!

しかも、私達を病室で二人きりにしてくれたのです。

久し振りに会えた美里……。

静かにただ私を見つめる目は、天使のように澄んでいました。

私を見て、嬉しそうにはにかんだように微笑む顔。

大好きな美里が、夢ではなく、本当に私の目の前にいました。

本当に久し振りに、彼女と二人だけの時間を過ごすことができました。

私達は病室で、まるで何事もなかったかのようにごく自然に、何気ない会話を続けました。

どのくらい時間が経ったでしょう。

ふと話が途切れた時、美里が私をじっと見つめました。

ずっと言いたかった言葉を絞り出すように、こう言いました。

「剛史さん、私のこと、忘れないでね……」

私は驚いて、絶句しかけましたが、次の瞬間、大声で言っていました。

「忘れるわけないよ!」

堰を切ったように続けます。

「これからも、ずっとずっと一緒だよ。どれだけご両親が反対しても、僕は君を絶対あきらめないよ! 君を世界一幸せにしてみせる! 僕の命に代えても。死ぬまでずっとずっと、ふたりで生きていこう」

そして、彼女の細く、白く透き通った手を固く握りしめました。

美里も、わずかな力を振り絞るように、私の手をぎゅっと握り返してきました。

私たちの繋いだ手が、二人を永遠に繋ぐ命のロープのように感じました。

しばらくの間、彼女も私も握りあった手を離そうとはせず、二人だけの夢のような時間がゆっくりと流れていきました。

でも、二人が会うことを許された時間は確実に消えていき、約束の時刻がやってきてしまったのです。

病室を出るとき、彼女は、静かだけど眩しい笑顔でベッドから見送ってくれました。

私の背中には、彼女のまっすぐな視線がいつまでも突き刺さっているかのように、ジンジンと熱くなっていました。

私のすべてである彼女に背を向けて、立ち去りました。でも、病院を出ると、思わずここで振り返り、もう一度病室へ駆け戻って彼女を強く抱きしめたい。そんな強烈な衝動に駆られました。

きっと美里は、またあの笑顔で私のことを迎えてくれる。でも、彼女の体調を考えたら、それはできないことでした。自分の気持ちを押し殺すと決めた私は、帰り道を急ぎました。

頬には、涙が伝っていました。泣き声を漏らし、ぶるぶる肩を震わせて歩く私を、すれ違う人はどんな風に見ていたでしょうか。

「絶対に放さない」と誓った美里の手が私から放れ、永遠の別れとなることなど、その時の私は全く考えもしないことでした。

その日から、数週間後。

突然、私の携帯の着信音が鳴りました。

それは、彼女の友人からの電話でした。

「剛史さん。実は、美里さん……」

私は、携帯電話を握ったまま凍りつきました。

彼女が死んだ?

そんな馬鹿な……!

受け入れがたい事実を受け止めるのに、時間がかかりました。

あの面会が、私たちの最後の刻だったなんて……?

「うわあああぁぁぁ……!」

全身を引き裂くような叫びが、私の内側からほとばしりました。パニックで真っ白になった頭を激しく振り、顔を両手で覆っても、激しい嗚咽を止めることができません。

とめどなく頬を流れ、雫となった涙がボタボタと足元へ落ちていきました。ただただ、そうするしかありませんでした。

美里は、もうこの世には、いない。

そして、私は理解したのです。

そうか。……そうだったんだ。

あの時、美里はもうわかっていたんだ……。

一人で先に逝かねばならないことを。

私を置いていかなければならないことを。

あの日が最後になると気づいていたから、そんな君の最後の願いだったから、ご両親は私を病室に入れてくれたんだ。

なのに、なのに……

……私は!

全部、私が悪いんだ。

私がもっと早く気づいてあげていれば、きっと何か方法はあったはずだ。

いつもそばにいたのに、なぜ彼女の異変に気づいてあげられなかったのか。

彼女の両親が、私を恨むのは当然のことだ。そう思いました。

恨まれていることが、かえって救いだとさえ感じました。

私が悪いのだから、もっともっと恨んでください。

この、大馬鹿野郎を。

美里にしてあげたいこと、二人でしたいことが、両手でも全然足りないくらい沢山あったのに……!

これからだったのに!

一緒に新しい映画を観に行くことも、旅行に行くことも、結婚式をあげることも、何一つ、叶わなかった。

すべて、もう手遅れなのだ。

美里に愛を貰うばかりで、何一つ返すことが出来ないまま、美里は逝ってしまった。

なんて自分は、ぶざまな男なんだろう。

彼女と最後に交わした言葉が、私の脳裏に焼きついていました。

「剛史さん、私のこと、忘れないでね……」

そう彼女は私に言った。

「さようなら」じゃなくて「私のこと、忘れないでね」と。

私は、そのとき誓いました。

一生、美里を忘れない!

どんな時も彼女を忘れずに生きよう。

そう心に深く誓ったのです。

だって、私が彼女を死なせてしまったのです。

きっと私は、本当に人に不幸をもってきてしまう人間なのです。

自分の最愛の人でさえも、死なせてしまうほど。

私が死なせてしまった彼女への罪滅ぼしのためにも、絶対に彼女を忘れずに生きていこう。

私に会う人はみんな不幸になるし、私自身も隙だらけだから詐欺に遭ったりするんだ。

私は、このまま生きていても良い人間なのだろうか?

これからも、生きていっていいのだろうか?

でも、私の中では懺悔の気持ちともうひとつ、解消しようがない気持ちがありました。

なぜ、自分はいつもこんなにつらい目に遭うのだろう?

なぜ、自分ばかりがこんなに悲しい思いをしなければいけないのだろう?

私はいったい、こんな苦しみを味わわなければいけない、どんなことをしたっていうのでしょうか?

私、佐藤は、最初に彼からこの話を聞いた時、思わず涙がこぼれました。

今どきこんなに純粋な恋心を貫いている剛史さんに、言葉では言い表せない感銘を受けたのです。

しかしそのことによって、彼は何人の女性と会っても、何歳になっても結婚相手が見つからず、縁がないままでした。

だからこそ、剛史さんには是非とも幸せになってもらいたい、と私は思い、彼にひとつの問いかけをしました。

「剛史さん。あなたにとって彼女の存在は、出会う女性をすべて追い払ってしまう、意地悪な心の門番のような存在になっています。

死んだ彼女を裏切るような気がして、恋することもできないのでしょう。でもこのままでは、亡くなった彼女はずっと罪人のままですよ。それで本当にいいんですか?」と。

すると彼は、驚いてハッとした表情をしました。

今まで職場や周囲の人間に「あなたが幸せになったほうが、亡くなった彼女さんも喜ぶよ」とは何度も言われていましたが、彼女を罪人にしているという意識は露ほどもなかったのです。

何という勘違いをしていたんだ!

と剛史さんはショックを受けました。そして、彼女への罪の意識から自分の幸せを遠ざけていたことにも気づきました。

私は剛史さんの意識を変えるようにアドバイスしました。

「亡くなった彼女は決して剛史さんが一人でいることを望んでいません。

彼女は愛するあなたの幸せを心から願っている。

だから、本当は意地悪な門番なんかじゃなく、素敵な異性があなたのもとに訪れることを応援するウェルカムな門番なのです。

あなたがそう気づくだけで、彼女はあなたの新しい幸せのために協力してくれる存在なのです」

剛史さんがこの会話で大きく意識を変えたことで、運命は大きく変わっていきます。間もなく、彼のことをとても気に入る女性が現れたのです。

それは、剛史さん同様、私のカウンセリングを受けに来ていた女性でした。

私は剛史さんの許可を得て、カウンセリングの場で彼のお話をしていました。時に他の人の話がカウンセリングのヒントになるからです。

この女性、さゆりさんに、剛史さんと美里さんの悲恋物語を語って聞かせたところ、とてもよい反応を示してくれました。

「それほど一途に女性を愛せる人って本当に素敵ですね」

私は、もしやと思ってさゆりさんを山本剛史さんに紹介してみました。

さゆりさんは剛史さんに会った時から好感を持っているようでした。

「これから山本さんと出会う女性は、亡くなった彼女に感謝すると思うわ。なぜかって彼女のおかげで、あなたは結婚せずに独身でいたのだから」と、素直に思ったことを伝えました。

剛史さんは、その言葉を聞いて何より嬉しく感じ、そんなことを言えるさゆりさんを素敵な人だと思いました。